優れた病院建築に向けて
滋慶医療科学大学院大学
教授・博士(工学)
河口 豊
1.病院の建物は誰のものでしょうか。
病院建築は他の建築と異なり、3つのグループがその建築に関わります。まず所有者である開設者・経営機構、使用者である院長はじめ職員、そして利用者である患者と家族などです。他の施設も福祉施設や学校建築のように3つのグループが関わりますが、使用者の職種が多くかつほとんどが国家資格を持つ集団である病院とは状況が異なります。3グループの病院建築に対する要望を見てみましょう。
2.3つのグループの主な要望
①所有者:50年、60年と長期にわたって使うため、その間に変化する医療に対応できる建物、施設由来の事故を防ぐ建物、また建築はそのまま地域住民へのメッセージとなるので内外のデザインが優れた建物、そして出来るだけ投資額を抑えた建物となります。
②使用者:その時代の各種診断・治療が提供できる建物、感染などで医療成果が阻害されない建物、高さや照度など職場の作業環境が確保された建物、また利用者と十分に意思疎通が図れる建物、最後に利用者満足が医療への利用者参加につながるような建物です。
③利用者:十分な療養環境が確保された建物、医療を受けやすく計画された建物、使用者と十分に意思疎通が図れる建物、利便性の高い設備・施設が使いやすい建物、当然ですが施設由来の事故がない建物でしょう。
3.3つのグループの共通と相反
決められた予算の中でこれらの要望は3グループ間で共通するものと相反するものがあります。共通するものは医療成果が十分発揮しやすい建物、事故を防ぐ建物、質の高い建築の建物といえます。相反するものは投資額を抑えた建物に対して十分な職場の作業環境や患者療養環境の確保の困難さです。またかつては環境を良くすると患者が退院しない、入院はやむを得ずするものなので環境は最小限にして、その分を診療関係に割くべきだ、と言われました。今はそうは言いませんが限られた予算の中での部門面積の配分は常に難題です。
4.病院建設に向けて
病院の設計を進めていく中で、このような3つのグループの性質を十分理解することが優れた病院建築に結びつきます。しかし、設計の過程で利用者を代表する者は通常いません。医師や看護師など職員がどれだけ利用者の立場を考えられるかで決まります。関係者みんなで3つのグループに対しどのように応える病院にするかを考えることが重要です。
重要ポイント
- (1)変化する医療に対応できる建物
- (2)職場の作業環境が確保された建物
- (3)十分な療養環境が確保された建物
滋慶医療科学大学院大学
教授・博士(工学)
河口 豊 (かわぐち・ゆたか)
プロフィール
1944年生まれ、東京都出身。1967年千葉大学工学部卒、69年同大学院工学研究科修了、工学部助手、97年学位取得(工学博士・明治大学)。89年病院管理研究所建築設備部長、国立医療・病院管理研究所施設計画研究部長、98年広島国際大学医療福祉学部教授、04年同大学医療福祉学部長兼総合人間科学研究科長、09年同大学名誉教授。11年本学教授。
(社)日本医療福祉建築協会会長、日本医療・病院管理学会評議員など公職多数。
著書に「新建築学大系31病院の設計」(共著、彰国社、2000年)、「病院管理」(共著、メディカルエデュケーション、2008年)他。