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No.33
専門職の継続教育としてのIPE

専門職の継続教育としてのIPE

滋慶医療科学大学院大学
教授(博士・人間科学)

田村 由美

今回は、米国でのIPEを牽引してきたロチェスター大学名誉教授マデリン・シュミット博士の講演を参考にして、専門職の卒後教育について考えてみます。

 

インタープロフェッショナル継続教育の必要性

「インタープロフェッショナル・ワーク(IPW)」は、異なる専門職からなるチームのメンバー、あるいは異なる機関・施設が、サービス利用者(患者・家族)の利益のために、総合的・包括的な保健医療福祉ケアを提供するにあたって、互恵関係による協働実践を行うこと、またその方法・過程です。そして、IPWをより効果的に実践するために、複数の異なる領域の専門職者が連携(協働の質)およびケアの質を改善(向上)するために、同じ場所でともに学び、お互いから学び合いながら、お互いのことを学ぶこと、(またその機会)となる「インタープロフェッショナル教育(IPE)」が必要であるといわれています。

国家資格を取得した専門職を対象にしたインタープロフェッショナル継続教育は、労働人口不足、ケアへのアクセス、予防、内部あるいは相互間でのコミュニケーション、安全性、ケア調整と総合的ケアなどに関連した実践とのギャップに対処するために、『ケア提供において、効果的な協働が実現できるよう、また、ヘルスアウトカムを向上させるために医療専門職間で相互の意図的学習を行うこと(出典 WHO 2010)』であり、特に医療の質と安全に密接に関係します。

継続教育の見直しの視点

これまでの専門職の継続教育を次の3点から見直す必要があります。

  1. 教育の方法 :いくつかの継続教育は座学形式で提供されてきました。どちらかといえば講師からの一方向的でした。学習効果を高めるためには双方向的学習が不可欠です。
  2. 職場での学習 :最も効果的な継続教育とは、臨床状況を取り入れることです。
  3. 生涯教育 :保健医療福祉専門職の学習とは、個々の能力を高め、最高のケアアウトカムを提供するために、専門家、組織、職能団体等のサポート(認証を含む)のもとに生涯を通した 主体的学習を進めていくことです。

インタープロフェッショナル継続教育の焦点

・ケアの内容よりも、ケア提供におけるプロセスに焦点をあてます
・チーム“STEPPS” 等の多職種が参加するチームワークトレーニングを用います
・双方向的な職場での学習(work-based learning)を卒後教育単位として認めます

  • ケア提供の複合システムに組み込まれた学習
  • 働く場所というだけでなくケアの文化が存在する場でもある
  • 日常活動の一環としての学習

核となるコンピテンシー(能力)

最後に、インタープロフェッショナル継続教育で向上が期待される力についてまとめてみます。
インタープロフェッショナル継続教育であっても、核となるコンピテンシー(能力)の4領域は卒前のIPEと同じで、(1)価値観 / 倫理(2)役割と責任(3)専門職間のコミュニケーション(4)チームワークおよびチームベースのケア実践―となります。

たとえば、①患者および地域住民の利益を、多専門職の連携によるヘルスケア提供の中心におくこと ②他の保健専門職の独自の文化、価値観、役割/責任および専門知識を尊重することが実際の実践活動で行動となって可視化できることが重要 ③自分の技術(技能)、知識、能力の限界を知る ④ 他のケア提供者の役割と責任を説明し、ケアを提供するためにチームとしてどのように協力して動くべきかを説明することができる―などは、
上記(2)の役割と責任に該当する能力でしょう。職種間のコミュニケーションスキルの重要性は言うまでもありません。
⑤患者、家族、ヘルスケア・チームのメンバーと共に、わかりやすく、できるかぎり専門用語の使用は避けて情報を整理し、コミュニケーションをとる ⑥他のチームメンバーの言うことを積極的に聞き、アイデアや意見がでやすいようにします。臨床現場の仕事は一人ですべて出来る「マラソン型」ではなく「駅伝型」がほとんどです。だから引き継ぎが患者安全にとって重要
さらに、⑦協働実践とチームワークの効果をサポートするリーダーシップを発揮する ⑧多職種によるチームワークとチームベースのケアの有効性を高めるために、常にプロセスの改善をしていく主体的参加とコミットメントが必要―となります。

これらの能力が“頭で”わかっている(シングルループ・ラーニング)だけでなく、行動として可視化できるもの(ダブルループ・ラーニング)となることが最も重要でしょう(図参照)。

田村 由美 画像

滋慶医療科学大学院大学
教授(博士・人間科学)

田村 由美 (たむら・ゆみ)

プロフィール

1956年生まれ、愛媛県出身。1979年松山赤十字看護専門学校卒、同年松山赤十字病院看護師。93年佛教大学社会学部卒、96年ロンドン・サウスバンク大学大学院保健福祉学研究科修士課程修了。香川医科大学医学部講師などを経て、05年神戸大学大学院保健学研究科教授、11年本学教授。12年7月早稲田大学で博士(人間科学)学位取得。
著書に「新しいチーム医療-看護とインタープロフェッショナル・ワーク入門-」(看護の科学社、2012年)他。

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