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No.16
本学の学生10人が学びの成果を発表 ― 医療の質・安全学会で ―

本学の学生10人が学びの成果を発表
―医療の質・安全学会で―

文責・大阪滋慶学園顧問

越智道雄

第7回医療の質・安全学会の学術集会が11月23日―24日に埼玉県の大宮ソニックシティで、「医療質安全学の確立―社会技術としての医療の基礎構築―」をテーマに開かれました。この中で、滋慶医療科学大学院大学の学生10人が口演やポスター発表を行い、修士課程で学んでいる医療安全管理学の成果の一端を全国から集まった医療関係者(2千数百人)に披露しました。

同学術集会では、「医療の質・安全に関する知識体系の開発プロジェクト」「電子カルテと医療の質・安全」などをテーマに13のシンポジウムのほか、共催セミナー、一般口演、ポスター発表(191件)など合わせて257件もの医療安全に関する情報が発信されました。

この中で、同大学の学生は医療安全の管理体制や事例分析について、7人がポスター発表とともに、プレゼンテーションを行いました。3人の学生は口演を行いました。また、教員4人もそれぞれ、シンポジウム、共催セミナー、口演とポスター発表に参加しました。

学会での発表や口演は初めてという学生がほとんど。緊張の様子も見えましたが、いざ順番が来ますと、発表スライド・ポスターと聴講者に目線を配りながら堂々と意見発表を行いました。

高松さん 佐藤さん 吉野さん
志摩さん 吉﨑さん 土屋教授

【学生】

 一般口演
喜田裕也
(第一期生)

収集した国内医療事故報告書での調査目的と構成員の検討

 医療事故調査の問題点を明らかにするため、43件の報告書を収集した。調査目的を記載しているのは31件、再発防止、原因究明、事実経過を把握するため。委員会の構成で実名、役職名の記載は28件で、内部と外部が参加している混合型が16件と多い。表現上に問題がある報告書もあって、医療安全の専門家の参加が必須と考えます。

大西アイ子
(第一期生)

気づかれるエラーとすりぬけるエラー
―看護職の薬剤業務におけるエラーの発生とその検出―

 エラーを検証するため、急性期一般病院Aで、2年間に報告された薬剤インシデント(679件)を分析した。エラーに気づかず、患者に実施した「レベル1以上」と未然に防いだ「レベル0」とを比較した。結果は両方とも、行為の計画段階でのエラーが最も多く、他の医療従事者によって検出されたケースが多い。レベル0では、医師の指示段階でのエラーが多く、実行、準備、指示確認の段階で検出されている。

塩 霧都恵
(第一期生)

臨地実習における看護学生のインシデント後の教育的なかかわりについて
―メンタルケアを基盤とした学生へのかかわり―

 看護専門学校でインシデント後にかかわりを持つ教員10名にインタビューした。インシデントの内容は、単独でできる身近なケアがほとんどだが、学生は危険予測ができず、自己判断によってインシデントが起きている。インシデント後は情動不安定になるので、教員は寄り添うフォローをしている。またインシデントレポートを書くことで、評価的なかかわりができ、インシデントの認識を深める演習の工夫も必要です。

 ポスター発表
乾 悦子
(第一期生)

中小規模A病院での専従セーフティマネジャーの活動評価と課題

 地域医療の中小病院(199床)で、医療安全管理室の専任リスクマネジャーを通じて全職員に調査(回答207名)した。職員が安全行動に繋がった研修会は、5S活動42%、部位違え手術体験者の日常業務に潜むピットホール30%、インシデント事例からの磁場リスク16%―など。事故防止マニュアルの認知度は71%だが、この周知徹底と職員が活用を実感できるインシデント報告が課題。調査によって、同マネジャーの業務改善が期待される。

高松いずみ
(第二期生)

臨床検査部採血の現状と医療安全管理の問題点の検討
―大阪府下12病院臨床検査部への質問紙調査―

 大阪府下12病院検査部を通じて、採血従事者に調査(回答273名)した。採血による副作用発生頻度(推定)は6386名に1件、針刺し事故は51867名に1件。ただ検査部が把握しているのは7割程度で、医療安全の管理上は問題。採血失敗の原因は、突然の心理的不安、生理的不調が多い。このため採血技術向上には、心理面、生理面での特徴を把握した訓練が必要。

吉野眞美

(第一期生)

看護師等の刑事医療裁判における現状とその対応策

 看護師らが関わった30件の刑事裁判例を分析した。事故のうち、薬剤、輸血、医療機器、手術に関して、73%が単純ミスで、薬剤が55%を占めた。栄養チューブ誤挿入などが27%。看護職単独での事故が53%、複数関与は47%。3年未満の看護師によるのが30%で、薬剤が67%。エラー防止策がなされているが、類似事故が繰り返されている。安全な医療システムに向けて、ヒューマンファクターなど背後要因を分析して、より確実な対策が必要。

志摩久美子
(第一期生)

手術室における有害事象の発生動向と取り組み
―選択項目事象の日米比較―

 手術室における有害事象について、複数の公刊報告書から発生動向を調査した。手術室に特化した件数、内容は公刊報告にばらつきがあり、全容を示すデータは不明確。ただ、具体的な記述から実態の概要は確認できた。患者取り違え、部位間違いは「起きてはならない」として、減少させなければならない。引火に関連した火傷はマニュアル化が急務。対策についてはWHOの「安全な手術がいのちを救う」の推進内容と関連して、チームで取り組む必要がある。

重見雅子
(第一期生)

近畿地区の医療機関における「臍の緒」の取り扱いに関する実態調査

近畿2府4県の病院に、臍の緒に関して調査(回答42施設)した。母親に臍の緒を渡しているのは41施設、慣習というのが半数で、施設方針、希望だから。母子の絆としているのは23%。スタッフ教育をしているのは、臍炎防止を主に半数だけ。紛失経験は25施設で、15施設は発見できなかった。インシデントの対象は17施設。臍の緒の意味を知らないケースもあり、教育や母親の役割を獲得するシステムの構築が必要。

吉﨑歌葉子
(第一期生)

電子カルテ記載の量・質的分析による外来医療クラーク導入効果の評価

 耳鼻咽喉科診療所の電子カルテから代行入力のデータ「所見」(11904件)を対象に分析した。2007年から2011年にかけて、医療クラーク導入前と代行入力の範囲拡大とで比較した。患者は年々増加しているが、一人当たりの平均文字数は全体的に年次増加傾向となっている。再診では初診に比べて客観的データの年次増加が顕著。これらのことから、電子カルテへの慣れもあるが、医療クラークの代行入力による効果が表れている。

佐藤有美
(第二期生)

医療における安全文化の評価指標についての考察
―WHOの患者安全教育ガイドラインを用いた日本・欧米の比較―

 5つの電子化された医療情報データベースから、「医療安全文化」などをキーワードに国内外の文献を検索した。128編のうち、医療安全文化の評価指標に関する文献は日本8編、欧米33編。評価指標として、日本は分析や訓練に重点、MSSでは患者・家族対応を含んでいる。ただ、いずれもノンテクニカルスキルの内容が不足しており、知識・技術の定着を測定する日本型の評価指標を追加する必要がある。

 

【教員】

 一般口演
笠原聡子
(講師)

医療クラーク導入効果の新評価法―電子カルテ内特記事項記載率・質的変化解析

 耳鼻咽喉科診療所の電子カルテから所見データを、収集、特記事項について分析した。調査対象(11904件)中52,5%に特記。医療クラーク導入前より導入後は、患者一人当たりの文字数は増加、記載内容も質的に向上。医療クラークの導入効果が示された。

 ポスター発表
土屋八千代
(教授)

認定看護管理者制度ファストレベル教育受講生が考える特定看護師(案)の是非

 受講生75名を対象に「看護の職務、役割」を調査した。看護は専門職との回答は23名(30,7%)で、理由は国家免許。専門職否定は27名(36%)で、相対的医療行為が多いなどが理由。特定看護師を是とする者は14名(18,7%)で、理由は看護の地位向上、患者にメリット。非は47名(62,7%)で、リスクが高くなる、看護師不足、時期尚早などが理由。

文責・大阪滋慶学園顧問

越智道雄 (おち・みちお)

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