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No.05
医療機器材料の安全管理

医療機器材料の安全管理

滋慶医療科学大学院大学
教授(工学博士)

林 壽郎

現代の先進医療技術の発展の中で、医療機器材料は大きな役割を果たしてきました。その中で材料工学をはじめ広範な科学的知識と技術の集大成としての医療への貢献が経済性も含めて重要課題となっています。医療機能材料開発の研究者として、医療安全管理の立場から「臨床現場における安全な医療機器材料の在り方」について、考察してみます。

医療安全管理は医師をはじめ各医療専門職による高度な医療技術と相互の緊密な協力体制によって全うされます。そこで補助的役割を果たすべき医療機器材料は、それ自体が必須となる基本要件を満たすとともに、取り扱う医療従事者の認識が充分に達成されて初めて実効性が生まれることを忘れてはなりません。

医療機器材料の基本要件は、「生体安全性・生体機能性・生体適合性」の各段階を完全に達成し、保健衛生上の観点から薬事法に基づく「品質確保のための企画・基準・安全性試験と無菌試験」すべてに合格することが求められます。

次に臨床使用にあたって医療機器材料は、その性能だけではなく、医療従事者の負担を可能な限り低減する開発努力が必要となります。医療機器操作法や材料特性などの周知徹底とお互いの情報交換や現場からの要望を組み入れた『ヒトに優しい柔軟性のある医療機器材料の開発』が大切となります。

安全な医療を確保していくために、医療機器材料は『安全性、高機能性・経済性』を十分に達成し、関係者間の円滑な情報交換を通して『ヒトに優しい柔軟性』も備える必要があります。ただ、「医療材料は工業用材料と違って、患者さんの条件によって、同じ材料でも異なる選択肢」があります。従って「最高の機能」よりも「適正な機能」が究極の選択となるでしょう。

安心社会に向けて、さらに成長していくために

①患者さん個々のQOLと素材の適正な選択
②臨床現場での材料に起因する医療事故の防止
③医療材料の適正・安全使用に関して、施設内での情報交換のあり方

など課題を解決していく必要があります。

重要ポイント

  • (1)安全性、高機能性、経済性の合理的追求
  • (2)ヒト(患者さんと医療従事者)に優しい柔軟性
  • (3)「最高の機能」よりも「適正な機能」

【医療機器材料の基本要件】

生体安全性 材料劣化  機械的、物理化学的、科学的劣化
生体反応  局所反応、全身反応 (急性・慢性)
可減菌性  高圧蒸気減菌、ガス減菌、放射線減菌
生体機能性 材料特性  生体内安定性、生体内吸収性
代行機能  物理・化学的機能性、生物学的機能性
生体適合性 界面適合性  抗血栓性、組織接合性
構造適合性  力学整合性、デザイン

【医療機器材料の分類(リスク対応)】

分類 リスク 判断基準 販売規制 具体例
高度管理医療機器材料
(801品目)
不具合が生じた場合、生命の危機に直結、または人体への重大な影響・患者への侵蝕が高い 販売許可
大臣承認
ペースメーカー、人工心臓弁、心臓カテーテル、透析器人工骨
管理医療機器材料
(1318品目)
生命の危険または機能障害に影響を与える恐れがある 販売届出 画像診断機器、MR装置、カテーテル、電子体温計
一般医療機器材料
(967品目)
不具合が生じた場合でも、人体への影響が軽微 なし 体外診断用機器、聴診器、鋼製手術器具、メスなど

林 壽郎 画像

滋慶医療科学大学院大学
教授(工学博士)

林 壽郎 (はやし・としお)

プロフィール

1939年生まれ、滋賀県出身。62年大阪府立大学工学部卒、67年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、73年工学博士、米国ケースウエスタンリザーブ大学客員研究員、京都大学医用高分子研究センター助教授を経て、94年大阪府立大学附属研究所教授、00年同大学先端科学研究所長、11年から本学の教授に就任。日本接着学会会長などを務め、主な著書に「初心者のための接着技術読本」(日刊工業新聞社、2004年)他。

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