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No.04
ソーシャルワークと医療安全風土

ソーシャルワークと医療安全風土

滋慶医療科学大学院大学
専任講師(博士・人間福祉)

小野 セレスタ 摩耶

MSW(医療ソーシャルワーカー)の業務は、『医療ソーシャルワーカーの業務指針』(厚生労働省保健局長通知平成14年11月29日健康発第1129001号)で、

① 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整のための支援
② 退院に関する支援
③ 社会復帰のための支援
④ 受診・受療のための支援
⑤ 経済的問題の解決、調整のための支援
⑥ 地域における活動

と示されています。

役割期待としても実質業務としても②の「退院に関する支援」が最も多いと思われますが、MSWに限らずソーシャルワーカー(以下、SWr)本来の仕事は、“生活の支援”全般となります。生活問題は、病気、経済問題、介護、障がい、人間関係、家族問題、生活環境など挙げればきりがありません。医療分野でも患者の生活全般-入院中の病院での生活のみならず、転院後あるいは退院後の生活をも視野に入れた支援をするのが「あるべき姿」です。

SWrは、いずれの分野においても当事者と対等な立場で信頼関係を築き、そして寄り添い“その人がその人らしくある”ことができるよう側面的に支援することを何よりも重視します。そのためにさまざまな社会資源を総動員し、必要に応じてつなぎ合わせる役目を担います。SWrは対人援助技術や社会資源に関する専門知識を持ち、地域の社会資源との調整役を担う「ケースマネジメント」を行う専門職です。

病院で「気になるけどちょっと言いにくい」「聞きたいけど聞きにくい」といった経験は誰しもが体験していることですが、そういった患者さんの抱える生活に関する小さな悩みや気になること、医療職者にはちょっと言いにくいことにも対応できるのがSWrです。患者さんが抱える不安や先の見えないいらだちは、形を変えて病院や医療職者への文句や苦情として現れることもあります。

そのような患者さんの気持に寄り添って傾聴できるのはSWrをおいて、他にはいないでしょう。思わず“クレーマー”と言いたくなる場合もないことはないですが、「文句」や「苦情」、「不平」や「不満」が出るのには必ずその背景があります。それはご本人の生活経験、生活歴に影響されているものもありますが、過ごしてきた環境によって形成された二次的なものが多くあります。もしそれらの一部が入院生活、あるいは病気や障がいとともにある地域生活という環境が作り出したものであるとするならば、環境の改善に取り組むのも仕事です。

SWrは、対等な立場を前提とした信頼関係の形成、患者に寄り添うことを得意とする“医療職者ではない”ことが逆に強みとは考えられないでしょうか。医療分野でSWrは目立たない存在ですが、病院内連携の一員として積極的に巻き込んでいただければ、組織の一員として「医療安全の風土づくり」に貢献できると確信しています。

ソーシャルワーカーは、

重要ポイント

  • (1)生活支援全般が本来業務
  • (2)当事者と対等な立場で信頼構築
  • (3) 院内連携で安全風土づくり

小野 セレスタ 摩耶 画像

滋慶医療科学大学院大学
専任講師(博士・人間福祉)

小野 セレスタ 摩耶 (おの・せれすた・まや)

プロフィール

1977年生まれ,神戸市出身。2001年神戸女学院大学卒、 関西学院大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程単位取得、社会福祉士資格取得、08年同大学院人間福祉研究科博士後期課程修了(博士・人間福祉)、関西学院大学非常勤講師などを経て、11年本学専任講師。主な著書に「次世代育成支援行動計画の総合的評価‐住民参加を重視した新しい評価手法の試み‐」(関西学院大学出版会、2011年)他。

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