『環境・モノを変えて―人間に合わせる』
―人間工学とは、どのような学問ですか。
「一言でいえば、人間に合わせて、仕事の環境やモノ(道具、機械)を作り変える学問です。人間が環境やモノに合わせるのではなく、人間の生理的、心理的、動作・行動の特性に適した環境やモノを作り上げる(設計する)ことを目的としています」
「人間が環境やモノに合わせようとすると、負荷が大きくなって、エラーの増加を招きます。逆に、環境やモノを人間に合うように作り変えると、負荷が小さくなって、エラーも減少します」
「このように、人間工学は働きやすい職場や生活しやすい環境を整えて、人々の安全、安心、健康の保持、向上に役立つ実践的な学問と言えます」
―人間工学を理解するには、何が必要ですか。
「まずは、人間を知るということです。そのためには、生理学、解剖学によって人体の構造、組織、働きを理解するとともに、認知機能の働きを知るために認知心理学が必要になります。言うなれば、人間のハードとソフトの両面を知る必要があります。それに、環境やモノを作り変える意味からは、物理学や工学の知識も必要です。幅広い学際的な学問ですね」
―医療安全との関連性について説明してください。
「医療安全の根本は、労働環境の改善にある、と思っています。ヒューマンエラーによる医療事故の場合、最終的な行為の結果が注目されます。しかし、エラーを防ぐには、何故そうなるのか、どうしてそうするのか、といった行為の背景のメカニズムを知ることが重要なのです」
「忙しすぎる、疲れている、心配事がある、など通常の範囲を越えた時にエラーを起こしてしまいます。それを防ぐには、忙しくならない労働条件にする。疲れないような作業環境をつくる、といったことが必要なのです」
「人間はそう簡単に変えることができません。変えることが出来るのは環境であって、そのことに適しているのが人間工学です」
―岡先生は大阪大学で人間科学を学ばれて博士号を取得、東京大学では人間支援工学分野の特任助教をされていました。本学の医療安全にどう役立っていますか。
「もともとは人間支援工学、適応認知行動学が専門で、障害や病気で困難を抱えた人の生活、学習、就労を支援するために、テクノロジーの活用や環境調整による支援方法などを研究しています。阪大時代は人間の認知のメカニズムを調べて、効率的な訓練方法について研究していました。東大に行ったときに、人間を変えるには限界があることを感じました。そこで、工学的発想を身に付け、医療安全の実践においては、人間に合わせて工学的解決法を提案していきます」
「大学院では、院生自らが問題意識を持って、科学的な視点で解決することを学んで欲しい。そのためには、どういうふうに考えるかの『考え方』、どうやって調べるかの『方法論』、そして『分析法』が大事になります」