本学では、こうした“医療改革”の動向を敏感に捉えて、わが国で初めて「患者参加論」を授業科目に導入しました。スタートしたばかりの「患者参加論」を担当している飛田伊都子准教授(博士・看護学)に、授業の狙い、患者参加のあり方などを聞きました。

―患者参加論~わが国初の授業科目、医患連携を追究―
―患者参加論は今年度から授業科目となりました。正式な授業科目としては、わが国で初めてとのこと。授業科目に入れた理由から、お話ください。
本学は医療の安全と質の向上を目指して教育・研究を日々実践していますが、これらいずれにも患者の参加が不可欠だからです。高度に進展した現代医療技術とは裏腹に、医療者と患者の意思疎通は乖離しています。「病気は医療者が治す」という観点では医療の力は限界であり、患者が本意の医療を受けるためには患者が十分な情報を受け、それによる“自己決定”が必要になります。
そして、医療者は患者が求めている情報を開示する必要があり、患者は医療者に自身の意思を表示すべきです。それには有効な“コミュニケーション”が必要であり、双方の意思が目に見える形で行動化されることが大切です。
―いま、なぜ「患者参加」なのでしょうか。医療への患者参加の基本的な考えを教えてください。
平成15年に厚生労働省から出された「医療提供体制の改革ビジョン」において、患者と医療者との信頼関係のもとに、患者が健康に対する自覚を高め、「医療への参加意識」をもつことが示されています。予防から治療までのニーズに応じた医療サービスが提供される「患者主体の医療を確立」するために、「患者視点の尊重」が強調されています。安全で安心できる「次世代型の医療体制」には患者が医療に参加することが重要であり、理論と実践を融合させた教育が重要となります。
―改めて、授業の主な内容と学びの重要ポイントを教えてください。また、医療安全を標榜する本学ならでは、という観点からの特徴は何でしょうか。
本年度の講義は次の点に焦点を当てます。「患者が医療に参加するということはどのようなことか」、「患者が参加する医療では患者はどのような行動をとるべきか」、「患者が参加する医療では医療者はどのように患者を支援すべきか」の3点です。これらを学内講師3名で医療情報管理,施設管理,システム管理の諸面から講義します。また学外講師の方には、医療事故を経験された当事者家族、医療者との協働を目指してNPO法人として活動する方,患者参加型医療を実践する医療者をお迎えしてそれぞれの活動を報告して頂きます。
―患者さんのパターンはいろいろです。通院、入院にしても短期から長期、終末期という期間の問題、慢性病、完治する病気から難治なもの、子供から大人、高齢者など、さまざま。参加のあり方は変わってくるかと思いますが。
確かにその通りです。患者自身が参加することが可能であればそれが最善ですが、一部の小児や高齢者、終末期の患者の場合、自身での判断や積極的な参加行動が困難な場合は、家族参加が重要な意味をもつことになります。患者自身が可能な場合でも、家族も一緒に参加することが望まれます。
―患者は医療に関しては素人、知識不足です。どうしても医療者の一方的になりがち。医師、看護師など病院挙げての医療側の意識改革が必要では。
患者は専門的知識や経験の上では弱者であり、医療者は患者を病気とみなして支配するような歴史的背景があったのは事実です。しかし、現在の医療は変遷の渦中で、患者参加活動を積極的に実践している医療施設は増えています。意識改革はすでに始まっています。本学の講義でもそのような医療施設の方にお越し頂き、その活動を報告して頂きます。本学がそのような活動のネットワーク形成に役立てば良いと考えています。
―患者サイドにも、病歴や服用薬など過去から現在に至る「病気情報」を伝える必要があります。医師はインフォームドコンセント、説明責任を果たす必要があります。双方が有する情報を共有することによって、信頼関係が築けます。双方が行うべきことなど、マニュアル化できますか。
意識改革が必要なのは、医療者だけでなく患者も同様です。日本の患者は治療やケアの選択を医療者に委ねる傾向があります。つまり「医療者におまかせ」型の患者が多いのです。しかし、それでは患者参加型の医療は実現しません。患者が自身の身体と健康について考え、自らの望みを表現し、そして医療に参加することができるように支援する必要があります。その枠組みという意味ではマニュアル化が可能だと考えますが、基本的には個別に対応すべきでありマニュアルだけでは不十分です。個々の患者がもつ病状や背景に沿って対応する必要があり、またその情報内容を医療者間で共有することが大切です。マニュアルと個別対応の両方が必要になるでしょう。
【医患連携】(造語)
患者が医療(病気の診断、治療)に参加するにあたっては、医師、看護師など医療従事者と患者とが信頼関係に基づき、相互協力が不可欠となる。医療サイドと患者(家族を含む)との“医患連携”が重要となる。
医療の対象はあくまでも患者であり、患者のために医療が行われる。病気の診断、治療、回復に向けて、医療者と患者は双方の情報を提供し、意思疎通のもと、「安全で、良質な処方」を決めるのが理想。そのためには、患者本人が医療に参加する必要がある。